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埼玉県立がんセンター・緩和ケア科医長 余宮きのみ 先生


●がん患者さんは苦しんでいる

 多くの方々の看取りをさせて頂く中で、患者さんやご家族から多くのことを学ばせて頂いて参りました。今日は、その一端をお分かちできればと思います。
毎年、がんで亡くなられる患者さんは30万人にのぼります。
統計から単純にいうと、この会場の半分の方ががんになり、そのうちの半分は治らない計算になります。
がんで亡くなる方が、最期の貴重な時間をどのように過ごされているのかというと、苦しまれているというのが実状です。がんの痛みというのは持続的で増強するという特徴があり、精神的にも不安になりその人らしさを容易に奪います。さらに余命1ヶ月から2ヶ月以内になると、痛みだけでなく食欲不振、倦怠感、身の置き所のない苦痛、呼吸困難、腹水でお腹がパンパンに張って苦しいなど、様々な症状が複合して出現してきます。

●がんの痛みで苦しむ必要はない

17年前に、WHO(世界保健機関)が世界のがん患者が苦しんでいる、ということに注目し、がん性疼痛の救済プロジェクトを立ち上げました。日本からは、埼玉県立がんセンターの総長、武田文和先生が参加され、WHO方式がん疼痛治療法が各国政府に公表されました。
 これは、一般的な鎮痛薬とモルヒネなどの麻薬を使うというシンプルな疼痛管理法です。これを忠実に実践すれば、80〜90%のがんの痛みは緩和されることが実証されています。
 一方、厚生省が数年毎に行っている調査で、がん専門病院のスタッフに「がんの痛みはどれくらい緩和されているか」という質問をし除痛率を調べています。除痛率は50~60%で何年たっても向上しないという残念な結果となっています。がんの患者さんを専門的に診ているがん専門病院でも半分くらいの除痛率しか得られていないことから、一般病院ではそれを下回るだろうと予測されています。 

●ホスピス・緩和ケア病棟の現状

ホスピス・緩和ケア病棟というのは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者さんに、痛みなどの身体の苦痛をやわらげ、精神的な苦痛などにも配慮し、残された時間をその方らしく過ごしてもらえるよう真剣に取り組む医療を行う病棟です。この20年間で、ホスピス・緩和ケア病棟は急速に増加し、現在120施設となっています。昨年、ホスピス・緩和ケア病棟で亡くなられた患者さんは、11200人です。これは、がんで亡くなられる30万人のうち、3.3%の割合です。診療所の先生方の熱意で支えられている在宅ホスピスを含めても専門的なスタッフによるホスピスケア(緩和ケア)を受けているのは4 %程度の方々ということになります。
 つまり残りの96%の方は、一般病院で亡くなられている訳です。

●がんで苦しまないためには

こうした中で、がんの痛みで苦しむことなく最期まで自分らしく生きるためには、まず「がんの苦しみは緩和される」ということを知っていることが必要です。そしてご自分やご家族、知人ががんになり、もし痛みで苦しむようであれば主治医に「がんの痛みで苦しまない方法があると聞いている」ときちんと主張して頂かなければなりません。
 なぜなら、がん性疼痛、がんの緩和ケアについては医師や看護師などのスタッフの啓蒙が大変遅れているからです。残念ながら、患者さんやご家族自らが医療スタッフにきちんと主張して頂かなければならないのが実状なのです。
がんの緩和ケアというのは、決して複雑なテクニックではありませんが、知識がないとできないのも確かです。 

●具体例 

 具体的な例をひとつお話します。私が初めてその患者さんとお会いしたのは、亡くなる6 日前でした。その方は‘のど‘のがんで、声が出ないため食道発声していたのですが、もう衰弱されていて筆談しか出来ませんでした。それでも治療経過などを一生懸命書いて下さいました。のどのがんなので、くびを締められるような苦しみを1ヶ月くらい味わっていました。主治医に、「いつまでこの苦しみに耐えなきゃいけないのか」と毎日筆談で書いていたそうでが、主治医は「私のできる最大限のことをしています」と言われていたそうです。主治医も1ヶ月言われ続けて、多分精神的にも参ったと思うのですが、亡くなる6日前に、私の所へ紹介してくれました。
患者さんは緩和ケア病棟というものがあることを聞いたとき、「自分はがんで死ぬことは覚悟している。ただこんなに苦しんでいるのは耐えられないし、ずっと付き添ってくれている妻に、こんな姿を見せたくない」「もっと前から緩和ケアというのを知っていたら・・・」と言われたそうです。これが現実であり、こういった例は枚挙にいとまがありません。
この方には数日の時間しか残されていませんでしたが、緩和ケア病棟で穏やかに過ごすことができました。

●まとめ

がんで亡くなる患者さんは苦しんでおられます。
しかし、「がんの痛みは緩和される。がんの痛みで苦しむ必要はない」ということを知って頂きたい。そしてご家族や知人ががんで苦しんでいらしたら、皆さんからも、このことを伝えて頂きたいと思います。