

埼玉県立がんセンター・放射線技術部・副技師長 諸澄邦彦さん
● 人が、放射線を被ばくする場合には、3つあります。
一つは、職業被ばくです。二つ目は、医療被ばくです。そして3つ目は自然界からの放射線による被ばくです。
放射線を使った検査や治療では、被曝は避けられませんが、診断上や治療上のメリットがあるので、被曝をどう小さくして、デメリットを抑えるという利益と損害のバランスを取ることがポイントです。
● 検査についていうと、胸部撮影では、X線を照射してその吸収差で画像をつくります。骨はX線を吸収するので白く写ります。肝臓は筋肉と脂肪で吸収されて白。肺は空気で満たされエックス線がほとんど吸収されないので黒く写ります。
撮影のときに、息を吸うと肺が大きく写りますから、見落としが少なくなります。また正面だけでなく側面からも撮ると、心臓の後ろや肩甲骨に隠れたところも写りますので、被曝線量は倍になりますが診断情報が増えるメリットがあります。
胃の検査(上部消化管検査)では、発泡剤を飲んで胃を膨らませ、胃壁のひだに造影剤を付着させて検査します。あわせて食道についても調べます。
男性の膀胱・尿道造影検査では、前立腺肥大やがん等疾患において、その形態だけでなく機能も分かります。
● こうした検査については、診療放射線技師によって腕の違いは当然あります。それは撮影された写真の良し悪しと被ばく線量の多い少ないの双方でです。胃の精密検査で、診療放射線技師と放射線医による検査の被ばく線量を測ったデータがありますが、当然個人差があるにしても、医師のほうが被ばく線量が多かったという結果も出ています。
技師だから医師だからだけでなく、その医療従事者の熟練度の技術差がありますが、腕の良し悪しは、職場でのトレーニングと自己研鑽で磨いていかなければならない問題です。病院の情報開示がこれからますます進んでいくと思いますが、はやっている病院が検査がうまいかどうかは一概に言えません。
埼玉県には、約2700の診療所と400の病院があります。そこで被ばく線量が少なければいいかということだけではダメです。本当に診断に耐えうる写真をとっているか、ということが大切な判断要素です。
がんの検査などの病気の精密検査では、確定診断をするためのものですから、患者さんも被ばく線量はさほど気にしませんが、健康な人を対象にした健康診断では別で、どちらにメリットを求めるかです。
● 病院によって、当然、古いCTのところと新しいCTが入っているところがあります。被ばく線量はそれほど違いはないと思いますが、得られる画像の画質に大きな違いがあります。今は、病院経営も厳しいので、手直しをしながらいつまでも古いCTを使っているところもあるかもしれませんが、画質の違いは頭に入れておいたほうが良いと思います。
● 放射線に関しては、患者さんの感受性の個人差があります。皮膚障害で例えて言えば、夏に海で肌を焼いたときに、ものすごく焼ける人とそうでない人がいるように、放射線を受けても障害の出やすい人とそうでない人がいます。また病気に対する身体の臓器や組織の感受性の違いもあります。
ただ放射線を使った検査や治療を行う場合、生殖腺と骨髄、そして目(水晶体)はきちんと防御することが大切です。被ばく線量は、@距離とA時間とB遮蔽で大きく変わりますので、この防御はできる限りすべきです。
昔、CTは10ミリ、8ミリスライスで1枚2分程度かかっていましたが、今は、全身の1ミリスライスがわずか2秒でできる装置もあります。
病気によっては、特に手術前には血管との位置関係の情報が必要で、正確な情報を得た上でEBM(科学的根拠に基づく医療)で治療をしなければなりませんので、正確な検査と読影が不可欠です。
● 放射線を使った医療行為のもう一つは、放射線治療です。
放射線治療には、外から患部に放射線を浴びせる外照射と、患部に放射性物質を入れて中から照射する内照射があります。埼玉県内400病院のうち、25施設で放射線治療をやっています。そのうち内照射をしているのは県立がんセンターともう1箇所だけです。
内照射は、舌がん等において手術による損傷に比較して機能を保存できる大きなメリットがあります。針のような放射性物質を刺して、がんに放射線をあて続けて治療するやり方です。子宮頚がんなどでも行います。
● これからは、放射線治療が乳がんなどでももっと普及していくと思いますが、放射線治療のEBMをきちんと踏まえた治療のあり方が必要となると思います。
当然、放射線検査や放射線治療による事故も起こりえますので、皆様も放射線を使うメリット・デメリットについての正確な知識を持って、検査や治療を受けるようになさるべきと考えます。