BACK TO INDEX

 

    

かさい医院 院長 河西信勝さん

 当日は40名を超えるの方々にご参加いただき盛況の内に先生のお話を伺い、後半は参加者からの質問に丁寧にお応えをいただきました。


● さいたま行政区には、開業医が300人くらいいますが、そのうち往診をしている医師はだいたい100人です。それもほとんどは2人から3人で、10人以上の患者を診ている医師は10から20いるかどうかです。
在宅・訪問診療にかかわるのは年齢からいってもとても疲れるし、夜中に起こされて出向けば翌日の診療に集中できないとか大変です。しかし、大変でもやろうという気持ちの炎はまだ少し自分の中に燃えている。それは青春時代が全学連の学生運動のまっただ中で、まじめに色々考え行動したことが影響しているかもしれません。
 自分もそうだけれども、医者を志すときに初めから医者になろうと決めていた人はそんなに多くありません。私は学生の時は内科、それも循環器内科をやろうと思っていました。先輩から「ガンをやってみないか」と誘われ、癌研究会付属病院へ行ったわけです。このように医者の全部が全部、初めから医者を目指していたわけでもなく、専門の科を決めていたわけでもないことを頭にとめておいてほしいのです。
 医療ネットから話をしてほしいと言われて、この会が言うような「信頼できるお医者さん」というのはどういう医者なのか、少し考えてみました。
 1,信頼できる医者というのは万人にとって信頼できる医者ではない。フィーリングの合う合わないというのがある。人間だから感情があるからこれは仕方ない。
 2,「わからない」と正直に言える医者。そのかわり、「この先生なら分かると思うから」と他の先生を紹介してくれる医者。
 3,専門だけに長けている医者が今は多いが、総合診療ができる医者。    
 在宅の患者は、総合診療ができないと診られません。私の時代は外科の中に脳外科や心臓外科があった。地方の病院では内科なら小児科も診た。産婦人科の帝王切開を手伝ったこともあります。そして癌研究会付属病院では「頭頚科」にいきました。「頭頚科」というのは脳を除いた耳鼻科の領域と鎖骨の上までの間の癌を診るところです。そのおかげで今は、難しいのは別として耳鼻科も診ることができます。完全にやめるまで通算27年間癌研究会付属病院に居たおかげで総合診療を覚えてしまいました。
 自分の専門以外は分からないという医者が20歳代後半から40歳半ばまでに多い。総合診療が出来ないと在宅はできません。いま総合診療ができる医者を育てようとしているところは少ない。
 在宅についていうと、今述べた技術面以外に、医療制度の問題があります。医療費削減のために保険制度が変わって入院日数が制限されるというか、長く入院させても病院の収入にはならなくなってしまいました。急性期病院では原則2週間、ぎりぎり1ヶ月で退院。その時点でリハビリが必要らリハビリの病院へ。そこは1ヶ月が原則で長くて3ヶ月。その時点でまだ治らないようなら療養型病院へ。そこは3ヶ月が原則です。このように、短期間で退院させられるように、時代が変わってきました。
 人工呼吸器を付けているような人も例えばALSの患者も筋ジストロフィーの人も診ていますが、痰の吸引などがあって引き受けてくれるところがない。家族は夜中も3時間おきに吸引しなくちゃならず、家族が参ってしまう。市内に看護ステーションは16〜17ありますが、常勤は平均して3人ぐらい。あとはパー トです。パートの人は子どもさんが小さかったりで夜中の出勤は難しい。私の所でも巡回型はやっていません。看護協会はできるというが、どうやってできるのかと思います。訪問看護ステーションが巡回型をすることは困難かと思います。
 ヘルパーを養成して、ヘルパーさんに痰の吸引をしてもらっていました。ところが介護保険制度が始まったとたん、痰の吸引は医療行為だからヘルパーがやってはいけないことになった。厚生労働省のいう医療行為は28項目ぐらいあり、爪切りも耳かきも、目薬をさすのも背中に軟膏を塗るのも湿布を貼るのもダメ・・・。
  在宅診療はけっこう行われ始めています。それは腰が痛くて病院まで行けない人とか、苦労のない在宅はやってくれます。しかし、在宅は、結構苦労も多いし、事故などの危険性もあり、信頼関係がないと大変です。癌の末期の患者さんは痛みのコントロールや栄養を入れるのにIVHをやります。痛みのコントロールは硫酸モルヒネや塩酸モルヒネをIVHで管理しながら使うので、どうしてもIVHの技術が必要です。
 また、寝たきり老人の末期には誤えん性肺炎が多い。誤えんを防ぐには鼻から管を入れて栄養を補ったり、胃に外から管を通して必要な栄養を入れるなどの方法があります。そうすると、ものも食べられるようになるし、長生きもします。
 私は、長生きが本当にいいのか、いつも悩んでいます。人間生まれたからには、いつかその先に死があります。それをなかなか皆様から認めていただけません。老人の場合は「もう死にたい」とか「お迎えが来ない」などという人が多いが、「死にたい」「死にたい」という人を絶対に励まさないでほしい。もう精一杯頑張っている。これ以上は無理だし、かえって期待に応えられないと気持ちが落ち込んでしまう。死は生の延長線上にあるものだと考えて、「無理しないで気長に行こうよ」といって欲しい。どこかでお別れがあることを認めて欲しいと思っています。
 2002年10月に健康保険改正で長期の投薬が認められるようになりました。当然受診回数は減ります。どこでも受診数が10%〜20%減といます。2003年4月の改正で、本人負担が増えたら患者が30%減ったと言われており、このままでは5年度どころか2年〜3年で、倒産する診療所も出てくると思います。
 内科・外科なら1日60〜70人診ると、事務員と看護婦が雇えるといわれています。1日30〜40人だと医者が一人でやるしかない。さいたま市内の医者の高齢化 率は高い。60歳でもまだ小僧っ子ですが、今医療事故が起きまして、医者が訴えられるだけでなく警察に逮捕される世界になってしまった。私も引退をいつにするか考えながらやっています。
  介護保険が入ってきて、その制度の使い方が分からない人が非常に多いし、費用がかなりかかると思っている人も沢山います。在介センターは、市から委託を受けて中学校区に1つあり、介護や医療の相談等は無料です。市役所の出張所と思えばいい。民生委員がやっていた仕事をそのまま請け負っています。老人のこと、生活保護のこと、入所のことなどの相談に応じてくれます。また、在介センターの下にある居宅支援センターも、ケアマネージャーが居ればどこでもできますし、無料で介護保険の使い方や手続きの代行をしてくれます。65歳以上だと誰でも介護保険を使えますし、それ以下でも指定の病気をもっていれば使えます。ただ、兼務の所も在介センターに多いようで常駐しているかどうかということはありますが、ともかく分からなければ相談してみることも必要です。
  在宅をやっていて感じたこと、ターミナルの問題、そして人間の死の問題など幅広くお話しさせてもらいましたが、何らかのお役にたてば幸いです。 

北浦和カルタスホールにて 03.4.20